新書「空海の真実」 教養として知っておきたい 池口 豪泉
新書「空海の真実」 教養として知っておきたい 池口 豪泉
偉大な弘法大師も人の子、失敗も挫折もあって、苦しみもある中で道を切り開いた空海の生涯を描く、筆者は高野山伝燈大阿闍梨。偉大な業績よりもそれをもたらした切っ掛けを探る。 謎も多い空海の修行時代に、何を学んだのか。「三教指帰」を書いたのは24歳の時、讃岐の両親に、当時主流だった道教、儒教よりも仏教で身を立てる意義を説明するために書いた。修行の中では、唐招提寺の鑑真がもたらした経典とその弟子如宝の教えがあった。如宝には、唐の言葉や風習も学んだという。遣唐使で長安に赴き、恵果阿闍梨から密教を学ぶ際にも、言葉がわからなければ学びも不十分となる。現に、同じ遣唐使で長安にいた橘逸勢は言葉の障壁から学びを諦めたと言われる。さらに恵果阿闍梨に会うまでの半年間に、北インド人の僧である般若三蔵と牟尼室利三蔵と出会い、サンスクリット語とインド哲学を学んだ。密教を身につける上で必須となる教養を身につけ、般若三蔵からは、多くの経典論書を託されたうえに、真言密教の根幹をなす「四恩」は般若三蔵から直接学んだという。 空海の生涯は多くの偶然、幸運にも恵まれた。父が当時では上流階級だった讃岐の郡司だったこともその一つ。修行に必要となる経済的支援は、学びの大前提である。遣唐使の一員として留学できたことが最大の幸運。803年の遣唐使は779年以来24年ぶりの唐への派遣だったが、嵐で1年間延期され、メンバーだった最澄などは九州で待たされていたという。その一年で留学僧の資格を得た空海は、桓武天皇の推薦を手に4隻あった遣唐使船の一番船に乗船、804年に唐に渡ることができた。遣唐使はその後、838年まで途絶え、それ以降、894年に廃止されるまで実際に留学生が派遣されることはなかった。空海個人にとって見れば最初で最後のチャンスをものにしたことになる。 空海は、普通人と同様の生涯を通して四苦八苦を経験した。生老病死の、五蘊盛苦、怨憎会苦、求不得苦、愛別離苦である。特に甥で一番弟子で、自分の後を託そうと考えていた智泉が36歳の若さで亡くなったときには悲しんだ。空海が死んだ後、「衆生の救済、後の世までの幸せを願う」入定という形（入滅ではなく永遠の禅定、「同行二人」）をとったのは智泉の死が契機だった。 定価: ￥ 1000 #池口豪泉 #日本史